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えび香

『えび香』

平安貴族は着物に香りを付けるため『伏せ籠(ふせご)』という道具を使用しました。

伏せ籠と言うのは、香炉に香を焚いてざるのような籠をかぶせたものです。

着物に香りを付けるのは、男女ともに貴族の身だしなみでした。

源氏物語をはじめ、多くの平安文学の中には様々な『香り』についての記述があります。

その中で『いと艶やかなり』『いとなつかしう薫り出でて』と語られるえび香は、樹木の皮をついて潰しふるいにかけて作ったり、白檀、大ウイキョウ、桂皮、龍脳などを細かく刻んで調合したものを衣の袖に落としたり、衣装箱におさめて香りを楽しんだものです。

物語の中で『末摘鼻の君』の段があります。

光源氏が女房に導かれた部屋の中で、なんとも言えず高貴な『えび香』の香りに触れ、現れた部屋の主である姫君の衣から漂う香りの素晴らしさに一夜を共にします。

しかしながら彼女の顔は、高い額に長くて赤い鼻という醜いものでした。彼女の容姿に幻滅し次第に足が遠のいてしまったものの、彼女の周りに漂う高貴な香りは源氏の心に深く染み込み、あわれみとも愛おしさとも言えない縁の不思議さで、やがて終生の面倒を見る特別な女性として迎えられていきます。

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